2020年11月02日

11月2日の例会 「曽根崎心中」

常連の参加者が来られないと聞いていたけれど、新規の参加者があるかもしれないので、一人で例会をやってました。で、近松門左衛門の「曽根崎心中」のトンコリ弾き語りを録音しました。こんな探り探りの即興ができるのも「無観客」のときならではではないでしょうか。


「曽根崎心中」(抜粋)
                近松門左衛門

 此の世の名残、夜も名残。
 死にゝ行く身を譬ふれば、
 あだしが原の道の霜。
 一足づゝに消えて行く。
 夢の夢こそ哀れなれ。
 あれ数ふれば、暁の
 七つの時が六つ鳴りて、
 残る一つが今生の
 鐘の響きの聞き納め。
 寂滅為楽と響くなり。
 鐘斗かは、草も木も、
 空も名残と見上ぐれば、
 雲、心なき水の音。
 北斗は冴えて、影映る。
 星の妹背の天の川。
 梅田の橋を鵲の、
 橋と契りて(徳兵衛)「いつまでも、
 我とそなたは女夫星。
 必ず添ふ」と縋り寄り、
 二人が中に降る涙
 川の水嵩も増さるべし。

 いつもはさもあれ此の夜半は、
 せめてしばしは長からで。
 心も夏の夜の習ひ。
 命を追はゆる鶏の声。
 (徳兵衛)「明けなばうしや。天神の
 森で死なん」と手を引きて、
 梅田堤の小夜烏
 (お初)「明日は我が身を餌食ぞや。
 誠に今年はこな様も
 廿五歳の厄の年。
 わしも十九の厄年とて、
 思い合うたる厄祟り。
 縁の深さの印かや。
 神や仏に掛置きし
 現世の願を今こゝで
 未来へ回向し、後の世も
 なをしも一つ蓮ぞや」と、
 爪繰る数珠の百八に
 涙の玉の数添ひて、
 尽きせぬ哀れ、尽きる道。
 心も空も影暗く、
 風しんしんたる曾根崎の
 森にぞ辿り着きにける。

 (お初)「はやはや殺して殺して」と
 最期を急げば(徳兵衛)「心得たり」と
 脇差するりと抜放し
 (徳兵衛)「サア只今ぞ、
 南無阿弥陀、南無阿弥陀」と
 いへどもさすが此の年月、
 いとしかはいと締めて寝し
 肌に刃が当てられうかと、
 眼もくらみ、手も震ひ、
 弱る心を引直し、
 取直しても、なほ震ひ
 突くとはすれど切先は
 あなたへ外れ、こなたへ逸れ、
 二三度ひらめく剣の刃。
 あつとばかりに喉笛に、
 ぐつと通るが(徳兵衛)「南無阿弥陀、
 南無阿弥陀、南無阿弥陀仏」と
 くり通しくり通す、腕先も
 弱るを見れば両手を延べ、
 断末魔の四苦八苦。
 哀れと言ふも余り有り。
 (徳兵衛)「我とても後れうか
 息は一度に引き取らん」と、
 剃刀取つて喉に突き立て、
 柄も折れよ刃も砕けと
 ゑぐり、くりくり目もくるめき、
 苦しむ息も暁の
 知死期につれて絶果てたり。

 誰が告ぐるとは曾根崎の
 森の下風 音に聞え、
 取伝へ、貴賤群集の回向の種
 未来成仏疑いなき
 恋の手本となりにけり。
posted by NOTO at 17:11| Comment(0) | トンコリ | 更新情報をチェックする